唐突ですが、川津はジビエが好きです。といっても、べつに格式高いものを食べたいわけではなく、単にどういう味なのか興味があるという程度です。

近頃は、変わった食材をリーズナブルに提供してくれるお店があちこちにあるほか、オフィスから近い神田になぜか鹿肉や猪肉などを提供するお店が多いこともあって、この数年は色々なお肉を少しずつ味見していました。

そうは言っても、なんでもかんでもお店で見つかるわけではありません。なので、色々試してすでに満足気味の私でも、「いつかは食べてみたい」と思っている動物がいます。キョンです。簡単に説明すると、外来種のちっちゃいシカです。動物園にいたのが逃げ出して、千葉県南部を中心に大繁殖し、甚大な農業被害を発生させています。

ここで、おっ外来種か食べて減らそう、となるのが最近のトレンドのようですが(100% 好きにはなれない考え方なのですが、すごく細かいことなので理由は割愛しまして)、ここで困るのがキョンはなかなか食べられないということです。なぜなら流通がないからです。

理由は色々ありますが、主にシカやイノシシより捕まえづらいこと、そして捕獲しても一頭あたりの肉が少なく加工コストがかさむことが主な障害となって、食肉利用が進まないらしいです。つまり現状、知り合いに猟師がいるなどでなければ、そうそう食べられないと。

そんな事情があったので、去年の私は「キョンを提供する飲食店:なし。お肉の販売:なし。通販:なし」という事実をひとつひとつ確認しては無念さを噛みしめていました。キョン駆除見学ツアーのページも見つけたのですが、開催日が未定です。

柔らかく食べやすく美味しいと評判なので、ぜひ一回は食べてみたい、現地でキョンに迷惑している人からすれば、無責任な話かもしれないとも思いつつも、ともあれ現時点の願望としては、一回は食べてみたい。しかしできない。仕方ありません。

しょうがないので、折々写真を検索してはキョンの外見を愛でるに留まっています。じつはキョンの外見もやたら好きで困ります。綺麗にまとまったフォルムをしていますし、顔面もエキゾチックで、なんともツボです。不思議な感覚ですが、これが「食べてよし、愛でてよし」というやつでしょうか。

ここで、キョンを御存じの方なら、「あの声も好きなのか?」と思われるかもしれません。流石にあの声は好んで聞きたいわけではありません。犬の吠え声というか、男性の絶叫ですね。これは怖い。動画で視聴してみて完全に納得しました。

ただ、面白いなという感想もまた浮かびます。というのも、夜の山というのは本来、不気味な絶叫とか、得体のしれない呟きとか、そういうものがもっと聞こえていた場所かもしれないと思うからです。たとえば、かつて日本の山にはオオカミの群れがおり、その遠吠えはまるで大勢の人のすすり泣きのように聞こえていたといいます。今はキョンが千葉県の山で叫び散らしているわけですが、その動画を見ていると、大昔の山とはどんな音の響く場所だったのだろう、そこに住む人たちはどういう気持ちでそれを聞いていたのだろうと、ちょっと考えさせられたりもするのです。

色々と喋り倒しましたが、何にせよ駆除対象です。スクミリンゴガイがタケノコに集まるというニュースを見ましたが、キョンにもこういう特効策が見つかるといいですよね。そうしたら食肉流通も夢ではないかもしれないのに。

投稿日:2020年1月16日 | 最終更新日:2023年11月10日