気づくと、前回ブログを書いてから1年以上が経ってました。この1年は時間SFにハマりまして、小説や映画をむさぼるように読んだり見たりしています。これまでに読んだ小説を数えてみると185作品。未読の小説はまだたくさんあるのですが、今日は現時点の私のおすすめ時間SF小説をご紹介したいと思います(長いよ)。

 

「SF」と言っても、宇宙や未来が舞台の作品は少数派で、多くは「ナミヤ雑貨店の奇蹟」や「コーヒーが冷めないうち」のように舞台の中心が「今、ここ」なので、普段SFを読まない人も十分に楽しめます。時間SFは「時間もの」と呼ばれることも多く、また一口に時間ものといっても、そのバリエーションはタイムトラベル/タイムスリップ以外にも実にバラエティ豊かです。ざっと次のように。

・機械や道具を使って、あるいは不思議な現象に遭遇して、過去や未来に行く
・意識・精神だけが過去や未来の自分の体に移動する
・特定の時間を繰り返し過ごす
・特定の期間の各日がシャッフルされて順不同に過ごす
・別の年齢の自分や他人に出会う
・未来を予知する・知ってしまう
・時間が止まる・時間を止める
・時を超えたコミュニケーション
・時の流れが逆向きの世界や人生
・不老不死
・生まれ変わり
・…

さてさて早速この分類に則っておすすめ小説を紹介しようと思ったんですが、やっぱりやめて、別の分類で挙げます(気まぐれ)。あと、おすすめの時間もの小説を紹介するサイトやブログはたくさんあるので、そこでよく紹介されている有名作品や定番は外し、なかなかお目にかかれない掘り出し物を見繕ってみました。ナイスな読書ライフの一助とならんことを。

 

■海外短編
『すんざれけみおをぁけうや』 ロバート・F・ヤング(訳: 市田泉。原題: When time was new)
1964年の作品。同じ著者による『けるぽぽはかひ』と同工異曲の作品で、そちらのほうが超有名なんですが、僕はこっちのほうがお気に入りです。タイムマシンで白亜紀に調査にやってきた主人公は、そこにいるはずのない幼い姉弟に出会う。切ない宿命を背負い、ピンチな状況に置かれている2人を主人公は守ろうとするが…。時間SFアクション冒険小説だなと思って読んでると、ラスト4ページにあっと驚く仕掛けがあります。時間SFならではの驚嘆の結末+不意打ちの胸キュン。本作が収録されている創元SF文庫ロマンティック時間SF傑作選『時の娘』には、他にも時間ものの逸品が多数入ってるし、編者あとがきには時間SFの名作や定番が挙げられていて、入門書としてもおすすめです。

言うの忘れてましたが、ここで紹介する作品はネタバレ回避のために、タイトルを暗号化しました。この紹介方法は意味あるんだかないんだかよくわからない気もしますが、レッツ・トライ。

■海外長編
『れせけ、くうそろしあもねかを』 ギョーム・ミュッソ(訳: 吉田恒雄。原題: Seras-tu la?)
過去に数分だけ戻れる薬を10錠手に入れた主人公(男60歳)は、今はもういない昔の恋人の姿をひとめ見るために過去へ戻る。愛する現在の家族を失いたくない男は、過去を変えないよう昔の恋人を遠目から見て満足するも、うっかり若き自分に彼女の行く末を教えてしまう。恋人を失いたくなくて未来を変えようとする若き主人公と、今の家族を守ろうとする老いた主人公の時を超えた攻防。長年の親友(若&老)も巻き込んで、それぞれはどんな道を選択するのか…。タイムトラベル+時を超えたコミュニケーションのストーリーも巧みだし、ラスト前の盛り上がりもよいし、白石健三のごときひねりと着地もうまい傑作です。本作、もともとは『ぢあわりうゐし』という、いかにも時間ものっぽいタイトルだったんだけど、2017年の映画化に際して原題に即した現行タイトルに変更されました。

■国内短編
『まめ、れめあ』 乾ルカ
主人公が出会った、冬の夜にだけ散歩する老女。その理由とは…。『あの日にかえりたい』という短編集に収録されている作品の1つで、この本に載ってる作品は全部よいです。特にこの作品はラスト2ページで頭からつま先に電流が走りました。他にも、『をいめおぇわちる』はじんわりくる短編、『にぎばね』は切なさこみ上げる小品。意味があると信じていたものに意味がないように思えたり、逆に、意味を見失ったものに実は大きな意味があったりするのが人生なのかなぁと感じさせる珠玉の短編集です。

『せざふこつうろ』 万城目学
『ホルモー六景』という短編集に収められた作品で、本書も収録作はマジ全部よいです。本作は、朱川湊人の短編集『かたみ歌』に収められている『おゑむつうろ』という作品に趣向が似ていますが、どちらも良作。『ホルモー六景』はデビュー作『鴨川ホルモー』 の続編にあたり、前作の裏側や前日譚・後日談を収めた短編集なので、前作を読んでからぜひ。前作本作どちらも、ストーリーの密度、登場人物たちのキャラ、読み味の濃い文体が際立っていて、僕の心のどストライクです。

■国内長編
『れーめれるぼれーめ』 静月遠火
時間ものを読み始めた頃は趣向や仕掛けに何度も驚かされたものの、たくさん読んでるうちに、パターンは出尽くしたかな、あとはプロットを複雑に凝るか時間パターンを舞台装置とした泣かせる系になるのかな~と思ってたところに、本作に出会って「そう来たか!」と思わず叫びました。ループものなんですが、このタイプは普通はループする人が主人公で、他の人は同じ時間を繰り返していることに気づかないものなんだけど、この作品はその「他の人」が主人公なんです。言ってる意味わかる? ループしてることに気づいていない人が主人公。まあ読んでみて。SFSFしてないのもよいし、謎解き小説というのもよいし、部活ものでもお仕事ものでもないガール・ミーツ・ボーイというのもよい。佐藤正午『ゆろ』も当事者じゃない視点で語られる時間もので、おすすめです。奇しくもどちらもアルファベットのタイトル。

『れせけてくうべ、ろんざべんめつ?』 竹宮ゆゆ子
今年の10月に出たばかりの新刊。切なげなタイトルやおしゃれ写真の装丁や帯の「時間ループ文学史上最高のラブストーリー」などの煽りと、ページを開いて飛び込んでくる文体が、どうにもマッチしてなさすぎて悶絶するも、その20歳おバカ女子一人称で語られる物語は読み進むにつれてグイグイ装丁や惹句に接近していき、美しい描写をまといながら「ろんざべんめつ?」に到達するや、感動にうちふるふる震えます。あと、読み終わった後に気づいた全体的な仕掛け・構造もおもしろくて刺さりました。

 

上記以外にも、時間ものパターンをほとんど網羅されている国内時間SFの第一人者・大家・名手で『黄泉がえり』も有名な梶尾真治の諸作品(本稿執筆中に名作『クロノス・ジョウンターの伝説』が映画化されるとのニュース!)や、時間ものじゃないけど僕が大好きな「円紫さんと私」シリーズを著している北村薫の「時間もの三部作」、ヨーロッパ企画舞台の映画化で若きムロツヨシが登場する『タイムマシン・ブルース』のノベライズなど、おすすめしたい有名・定番・埋もれた名作小説はまだまだたくさんあり、映画にも紹介したい傑作名画は枚挙に暇がないのですが、そのへんはまた別の機会に。

前回仕事で上京したとき、ついでに多摩図書館に行ってきました。多摩図書館には雑誌のバックナンバーが豊富にあって、僕のお目当ては『SFアドベンチャー1983年6月号』。この号には、梶尾真治、矢野徹、星新一、光瀬龍、小松左京、筒井康隆、眉村卓、豊田有恒、田中光二、赤川次郎、山田正紀、夢枕獏、神林長平といった錚々たる面々の作品や平井和正VS新井素子の対談に並んで、高千穂遙の『Aの時間』という時間もの短編が掲載されています。去年時間ものを読み始めたときに大昔に読んだこの作品のことを思い出し、ずっと探していたのですが、いろいろ調べた結果、どうやらこの作品は高千穂遙さんのどの本にも収録されていないようで、『SFアドベンチャー』でしか読めないらしい。1993年に廃刊になったこの雑誌のバックナンバーが多摩図書館に全部あるらしい。ということで足を運んだのでした。『Aの時間』は時間の静止した世界が舞台。主人公A以外は、人間はもちろん、空気や光までもが静止していて、体を動かさないと真っ暗だし息もできないという状況。はたしてAの運命やいかに…。図書館でコピーしてもらい(ついでに『青春と読書』のバックナンバーから単行本に収録されなかった中島らも『人体模型の夜』2篇も)、それを持って、よなよなビアワークス新宿東口店へ赴き、カウンターで独り大好きなインドの青鬼の生ビールを飲みながら、34年ぶりの本作に五体投地ばりの全身全霊で没入しました。時をかける再読。ビール&読書の幸福。こんな結末だったのか! すっかり忘れていました。

いかがでしょう、時間SF。気になる作品がありましたら、ぜひ書店に足を運んで著者名から探し出すか、その著者の作品を片っ端から読んでみてください。

若い頃は「未来を決めるのは自分」というテーマに感じ入ったものですが、最近は「過去に戻って現在を変えることはできない。でも、現在の生き方によって過去が持つ意味を変えることはできる」というメッセージに深く心動かされつつ、ふと現実の生活に目をやると、我が子(現在12歳)の人生がすぐそばで刻々と進んでいて、この「ゼロから始まった時間を間近で併走しながら見ている」という何とも不思議な体験に驚き戸惑い感動している、そんな2018年末の僕です。