ト音記号のぐるぐるは何回巻くんだっけと、子供のころには迷ったりしました。(川津)

会社の目の前の道に、由来はよくわかりませんが、ト音記号を浮き彫りにした石碑のようなものがあります。裏側には何かの歌詞が刻まれています。もちろんト音記号とくれば音楽です。少し離れた場所にある公園にも、ト音記号やら音符やらのオブジェがあったように記憶しています。

 

ト音記号の形には、なんだか不思議な魅力があるように思います。ほぼ曲線だけからできており、柔らかで、動的です。ただ書くだけでもちょっと楽しいし、見ただけで何かしらの音楽を想起できます。その点、音符は少し性質が違う気がします。音符が1つだけぽんと置いてあっても、それはただの「音」です。メロディーや音楽を表すためには、いくつかの音符が必要です。4分音符にするか、8分音符にするか、それ以上の音符との混合にするのかなど、バリエーションも考慮に入れねばなりません。

 

さて、前述のト音記号の石碑を見て、ある日ふと思ったのです。

「もし、ト音記号が別の形をしていたら、あらゆるト音記号のオブジェは作られていなかったかもしれない」と。

 

そもそもト音記号とは、5線譜に引かれた5本の線のうち、どの線が「ト音 (ソ)」なのかを示す記号です。類似の記号は他にもあり、ファの位置を示すへ音記号、ドの位置を示すハ音記号も使われています。

ここでそれぞれの形を見て頂ければわかる通り、一筆書きが可能なのはト音記号だけです。つまりト音記号は、たとえばそれ単体で立体化し、インテリアや小物を作ることが比較的容易なのです。

仮に、ヘ音記号でワイヤーアートや卓上カードホルダーなどを作る場面を想像してみてください。右側のテンテン、宙に浮いてます。どうしてくれようか。しかも「はらい」で書き終える形状なので、自立させるのも困難です。その点、ト音記号はなぜか末尾がくるりと巻いているため、設計次第で自立させることができます。ハ音記号に至っては、3つのパーツが分離しているうえ、どうにも右か左に倒したくなる形をしており、単体でのデザインとしてはいかがなものかと思うのです。

 

このように、立体化させやすいというデザイン的な敷居の低さと、その形状自体が持つ美しさや楽しさが、ト音記号の街中への進出と、ひいては「音楽」を代表する記号性の獲得を後押ししたに違いないと、勝手に思っているわけです。考えるべきことは他にもたくさんあるというのに。