喉と表情筋が、今年もやっぱり死にました。人と話さない生活に慣れた身にとって、2時間も喋り通すことは超重労働にほかなりません。

・・・何の話をしているかといいますと。フェロー・アカデミーさんで今年も「チェッカー講習」を担当してきました。同校のカレッジコースに通う翻訳者の卵さんたちを対象としたクローズドの講座です。120分×2日の計240分、内容はざっくり説明するとこんな感じでした。

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自己紹介
チェック作業とは:チェック作業を切り分けて考える
チェック作業体験:修正は必要?不要? みんなで考えてみよう
チェック作業の現実的制約について:われわれは現実的にどうすべきか
演習:訳文をその場で見てチェック
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今回こそは昨年作った資料があるから・・・と安易に承諾したら、これまた難産で。新たに加えたい内容を組み込んだり、会社の新しいロゴに合わせて資料を作り直したりと、準備に費やした時間は結局、今回もかなりのものになってしまったのでした。何事もコピペでは済まぬのです。

今年は、2日めの前半を大きく変えました。例年、1日目の前半ではチェック作業(レビュー、エディット、校閲など、その呼称は問いません)をこういう形で分類して整理します。

残る「表現面のチェック」は、文体の修正や、日本語面のブラッシュアップなどです。

自分で言うのもアレですが、この分類自体はおそらく、チェック作業というもののありようを、それなりに正確に反映したものであると考えています。ただ、どうも違和感が拭えないのはどうしたことか。色々考えてみると、この分類は、結果的に見つけたエラーを仕分け、チェック作業の内容を帰納的に導き出すという点では優れていたのですが、今現在チェッカーと呼ばれる方々の悩みを解決するツールとしては少々弱いのではないか。そんな点が引っかかっていたのでした。

チェック作業とはどういうものであるかを説明する。そこまでは間違っていないとして、さらに一歩踏み込んで、何らかの線引きを示したい。つまり、チェッカー/レビュアーと呼ばれる方々なら誰しもやったことがあるはずの「これ以上はチェックではない」という線引きを、ある程度普遍的な形で説明したい。もっと正確に言えば、「ここまでチェッカーがやらねばならないのだろうか」と思い悩むストレスを、可能なかぎり軽減できるような理屈を示してやりたい。これこそ、今回新たに加えた内容の背景にあった「思い」です。

そこで、講義では(1)チェック作業をあらためて要素分解し、(2)「現在相場とされている生産性(1日4000ワード)自体に無理がある」という視点とその根拠を紹介したうえで、(3)具体的に何をするべきかを検討しました。結論としては至極単純なものになってしまいましたが、そこに至る過程も含めて、単純な精神論や小手先のテクニックにとどまらない何かをお持ち帰りいただくことができたのであれば幸いです。

と、話の内容は昨年から大きく変わったところがあるものの、根本的なテーマの方はあまり変わっていません。

翻訳者になることを目標としている皆さんが、業界に入る第一歩としてチェッカーという仕事を始めた。そんなときでも、希望や意欲を失うことなく、最終目標たる翻訳者になるための歩みを続けていくことができるように。私が目指したのは、今年もやっぱりそういう方向性ですだから、この段落は今年も内容が変わっていない)。

しかし今、改めて講義の動画を見返していると、やはり至らぬ点も多々あったかと思います。たとえば、(昨年に比べると)チェック作業の面白さ・魅力のような点の紹介が少々おろそかになってしまったかもしれません。オンライン授業という形式によるやりにくさもあったかもしれません。課題が自分に合わない方もいらしたでしょう。それでも、最後までご参加くださり、ありがとうございました。今回受講された皆さんのこれからのキャリアに、少しでも良い影響がありますように。

自作イラストの使用も毎年恒例