翻訳の作業で翻訳メモリと並んでよく使うものの1つに、用語集があります。これは、ある単語ないしフレーズの訳語(+定義その他の重要情報)を確認するための参考資料です。 

 

用語集の例

用語 訳語 定義 備考
install インストールする コンピューターにソフトウェアを追加し、使える状態を整えること  
download ダウンロードする 外部から自分のPCにファイルを取り込むこと。  
(以下略)      

 

用語集に関連してよく問題になるのが、社内用語の類いです。今回は、「総務部」という言葉を例に、用語集の大切さについて書いてみたいと思います。 

  

用語集がないとどうなるか? ―「総務部」を例に 

今、ある社内文書に「総務部」という言葉が何度か出てきているとします。その文書を英語に翻訳する作業を、外部に委託しました。 

「総務部」の英訳になりうるフレーズとしては、Administration departmentGeneral affairs departmentGeneral administration departmentなどがあります。「Department」を前に持ってきて、Department of General AffairsDepartment of general administrationなどと言うこともあります。どれも一応、翻訳としては間違っていません。どれを選ぶかは、翻訳作業者の判断です。 

もっとも、これはあくまで既存の訳がない場合の話です。自社の「総務部」の英語名として既に「Administration Department」を使っていた場合に、訳文がことごとく「Department of General Affairs」になっていたら、混乱を招きます。いくら翻訳として間違っていないとはいっても、理解に余分な時間がかかるでしょう。修正の手間も馬鹿にならないと思われます。 

逆に、英日翻訳でAdministration Departmentという言葉が出てきた場合に、「管理部」などと訳されてしまっても問題です。「うちには管理部なんてないんだけどなぁ」と思いながら、逐一修正していくことになるかもしれません。 

  

手間を省くための一手間 

このような事態を防ぐためには、用語集を用意することが重要です。普遍的な正解がない以上、自社としての正解がわかる資料が必要だからです。先の例であれば、用語集を作って以下のような項目を設けておけば、無駄な作業の発生を回避できます。 

 

日本語 英語
総務部 Administration Department 

 

部署名、人名の表記、製品名、社内ツールの名称・UIなど、お客様にしか知り得ない訳語は、ぜひとも用語集でお知らせください。用語集を作るのは少々手間がかかりますが、その手間はもっと大きな手間を省くことにつながる一手間です。 

 ただ、ありとあらゆる用語の訳を先回りしてカバーするのは現実的ではありません。また、どういうフレーズを「用語」として挙げるかを考えるのも、なかなか大変です。そういうときは、成果物に加えた修正を後からお知らせくださるのでも結構です。翻訳会社では、お客様からのフィードバックから適宜重要な「用語」をピックアップして、次のご依頼に備えた用語集を作成するのが普通です 

 継続的に依頼をいただくからには、そのお客様の好みを反映したい。お客様の後手間を減らしたい。私たちも、翻訳会社としてそのように考えています。訳文に対するご要望は遠慮なくお知らせください。