翻訳会社や翻訳者に翻訳を依頼したけれども、期待していたような仕上がりにならなかった。使って欲しい専門用語が使われていない。思っていた文体と違う。そのままでは使えず、社内でかなりの手直しが必要だった。そのようなご経験はないでしょうか。さまざまな原因が考えられますが、大きな要因として、翻訳の作業に必要な情報が翻訳会社や翻訳者に伝わっていないことが挙げられます。

翻訳とは形のない言葉を使って商品を作る作業ですが、形のあるモノを作るときと同じく仕様の策定が欠かせません。その仕様を策定するために、原稿以外にも、事前に提供していただきたいさまざまな情報があります。

 

対象

この記事では、次のような方を対象に、翻訳会社や翻訳者への依頼の際に何を伝えるとよいかご紹介します。

    • これまで翻訳を発注したことはあるが、翻訳したい原稿を渡すだけで、それ以外の情報を伝えたことがない
    • 翻訳会社や翻訳者にはじめて翻訳を依頼するが、何をどう伝えればよいかわからない

 

発注時に何を伝えればよいか

翻訳者は、受け取った原稿そのものから、その文書の用途や背景情報などの情報を最大限汲み取り、それを訳文作りに活かします。しかし、発注者にしか知り得ない情報や意図も多々あり、それなしで翻訳を始めると、発注者が期待していたとおりの仕上がりにならないおそれがあります。

それでは、具体的に何を伝えればよいのでしょうか。ここでは、伝えると効果が大きい情報を中心にいくつかご紹介します。

 

翻訳の利用目的

その文書の翻訳をどこで・どういう場面で使うのか。

    • 社内で新人育成に使う研修資料である
    • 社内のトップマネジメント層への報告用に使う資料である
    • 営業担当者が企業顧客向けに/一般ユーザー向けに使う販促資料である
    • 社内外のエンジニアが参照するデータシートである
    • ITに詳しくないエンドユーザーが/ITに詳しいエンジニアがアクセスするWebサイトの文言である
    • 取引先と交わす契約書である

といった具合です。その文書が使われる場面が変われば、文体や使われる用語も変わってきます。こうした情報がないと、一読して意味がすんなり伝わる訳文にならなかったり、誤解を招くものになったりする可能性が高くなります。たとえば原文は「社内で新人育成に使う研修資料」であるのに、「社外の販売代理店向けの資料」を想定して訳されてしまったり、「ITに詳しくないエンドユーザーがアクセスするWebサイト」であるのに、エンジニアが使うようなカタカナの専門用語が散りばめられてしまい、意味がわからないと苦情が寄せられるといった状況になり得ます。文脈を掴みきれず、大きな誤訳に繋がるリスクもあります。

この情報は訳文の品質向上にダイレクトにつながるものですので、特に重要です。

 

対象読者

その文書はだれが読むのか・目にするのか。社内の担当者なのか、社外のお客様か、取引先や下請け企業なのか、といった情報です。

これは前述の「翻訳の利用目的」とも関係する情報です。これがないと、たとえば顧客企業向けの文書(B to B)なのに一般消費者向けの文書(B to C)として訳されてしまい、想定していたトーンとまったく違っている、といった状況になり得ます。 この情報も、訳文の品質向上に寄与します。

 

元ファイルがあるかどうか

たとえば英語を日本語に訳した場合、一般に文章は長くなります。そのため、レイアウトの調整(DTP: DeskTop Publishing)が欠かせません。しかし、原稿がPDFやWordファイルだと、微細な調整が難しく、訳文ファイルで同じようなレイアウトを維持・再現するのが難しくなることがあります。また、編集・加工に時間がかかり、コストが増える可能性もあります。 ただ、そのPDFやWordファイルも、InDesignやFrameMakerなど、別のソフトウェアで作られたファイルから出力されたものであるケースが多々あります。その元のファイルがあれば、それに直接翻訳を埋め込み、微細なレイアウトの調整を加えたうえで、PDFやWordファイルとして出力することができます。

この情報は、主に文書の見た目やUXの改善に繋がります。編集時間を短縮できることから、コストの削減にも効果があります。

 

過去の版(バージョン) があるかどうか

原稿には、旧版が存在することがあります。特に、ソフトウェアや機械のマニュアル、契約書などには、旧版が社内に眠っていることがよくあります。それを過去に翻訳していないでしょうか。もし翻訳したものがあるようでしたら、是非その情報をお伝えください。翻訳会社によっては、既存訳をさまざまな面で活かすスキルがあります。

過去の訳を活かすことで、次のようなメリットが得られます。

    • 料金を抑える
    • 納期を短縮する
    • 過去のバージョンとの用語や言葉遣いの一貫性を保つ
    • 過去の翻訳を流用しつつ、その日本語の質をさらに高める

 

 

使ってもらいたい用語の訳

「用語」と一口に言っても、特殊な固有名詞、業界で使われている言葉、ISOなど各種標準で定められている言葉、その会社独自の言い回しなどさまざまですが、もし使ってもらいたい訳があるようでしたら、翻訳者・翻訳会社にお伝えください。用語を一覧にした「用語集」を渡すのも効果的です。用語集とは、たとえば次のようなものです。

 

用語 訳語 定義 備考
install インストールする コンピューターにソフトウェアを追加し、使える状態を整えること  
download ダウンロードする 外部から自分のPCにファイルを取り込むこと。  
(以下略)      

 

用語集があれば、特定の語句に対する訳語を文書全体で統一することができ、読者が読むときの負担が減ったり、打ち出したいイメージに統一感を持たせたりすることができます。用語集については、以下の記事もご覧ください。

 

 

 

 

これまでに依頼して不満に思っていること、良かったこと

もし過去に別の翻訳者や翻訳会社に依頼を出したことがあるようでしたら、そのときに不満に思ったことや改善してほしかったこと、良かった点などを今依頼しようとしている相手に伝えてみてください。仕上がりの満足度がさらに高まります。

 

まとめ

以上、発注先に伝えた方がよい情報のうち、大きなものをご紹介しました。翻訳会社ではこのような情報を基に仕様を策定し、翻訳に活かします。その結果、本記事の冒頭で挙げたような「期待していたような仕上がりにならなかった。使って欲しい専門用語が使われていない。思っていた文体と違う」といった事態に陥るのを避けることができます。

ただ、ここで取り上げたのはごく一部であり、必要な情報は翻訳する文書によって大きく変わってきます。

    • 文章の語尾を常体にするか、敬体にするか(「だ・である」体にするか、「です・ます」体にするか)
    • 仕上がりのフォントなどの見た目(DTPも込みで依頼する場合)
    • 後工程での処理(そのまま使うのか、Webサイトなどにアップしたり流し込んだりするのか)
    • ポリティカルコレクトネスや、ダイバーシティ、インクルージョンなどの観点から、社内で使用が禁止されていたり、言い換えが推奨されていたりする用語
    • 文中で使われているUI(ユーザーインターフェイス)の訳語
    • その他

そこで、弊社テクノ・プロ・ジャパンでは、お客様にこうした情報を細かくヒアリングするようにしています。場合によっては専任の担当者を設けてミーティングを開き、お客様の要望を聞き取ったり、過去の納品物に対するフィードバックを頂いたりもし、品質向上に努めております。

ご発注前の初回のミーティング・ヒアリングは無料で承っておりますので、きめ細かいサポートで高品質な翻訳をご希望でしたら、是非一度ご相談ください。

 

弊社でのお取引の流れにつきましては、以下のページをご覧ください。