英語版サイトはかっこよく見えるのに、日本語版サイトはダサく陳腐に感じられる。
そんな経験、ありませんか。

これはなぜなのでしょう。
どうすれば訴求力の高い日本語サイトになるのでしょうか。

本記事では、そんな陳腐化の理由と改善策を、「最適化」というフレーズを通して考察します。

 

陳腐化を生む、英語版サイトのとある事情

英語版サイトの記事執筆者に、とある制約が課せられることがあるのをご存じでしょうか。海外の企業では、自社のWebサイトの記事を社員やフリーライターに書かせる際に、守るべき制約を設けることが少なくありません。記事を読みやすくし、ブランドイメージを落とさないための各種制約なのですが、その中に、陳腐化につながる原因が隠れています。それは、「記事で使う語彙のレベルが所定の水準を超えてはならない」という制約です。記事の中では、定められた難易度よりも低い、つまり簡単な語彙を使用すべし、というわけです。

その背景には、「どんな読者にも理解できるように、難解な単語は使わず、だれもが知っている平易な言葉だけで記事を書こう」という意図があります。企業によっては語彙レベルを測定するツールを使って原稿をチェックし、所定の水準を超えている言葉は別の言葉に置き換えさせているところもあるようです。

簡単な言葉を使おうとすること自体が悪いわけではありませんが、結果として、読者に刺さるような表現が消えてしまい、どのWebサイトも読みやすいけれど代わり映えのしないフレーズが並ぶ、という状況を生み出す要因になっています。

この現象は、なにも英語だけに限ったものではありません。日本語でも、景品表示法などで規制されている不当表示や誇大広告を避け、消費者に対する誤解やミスリードを防ごうという気持ちから、「最高」「完全」「完璧」「100%」「日本一」などの表現を禁じているケースがあります。その配慮も間違ったものではありませんが、結果として、単にそれらのフレーズを少し変えたり匂わせたりする微妙な表現が多用されることになり、製品を差別化したいはずの文章に同じようなフレーズばかりが並ぶ要因になっています。

 

使い古された「最適化」

とはいえ、企業もライターもそのような状況をよしとしているわけではなく、制約の範囲内で刺さる表現の模索が以前から繰り返し行われています。まだ手垢の付いていない語彙が物色され、目新しいフレーズが見つかると、Webサイトの記事中に効果的に使用されます。ただ、そういう新奇な語彙はすぐに他社の記事執筆者の目にとまり、こぞって使用され始めます。Webサイトの記事執筆も変化の速い世界ですから、そのような語彙もまたたく間によく目にする「陳腐なフレーズ」になってしまいます。

さて、そんな陳腐化したフレーズの代表格に、「optimize」(optimization) とその訳語「最適化」があります。IT系の記事に登場した当初は訴求力が高いと思われたこの単語も、英日ともに今では見かけないサイトはないほど使い古されてしまっています。

日本語版サイトで「最適化」がどれほど乱用されているか、試しに列挙してみましょう。

 

メモリの最適化                    ディスクの最適化                  キャッシュの最適化

ストレージの最適化             イメージの最適化                   システムの最適化

ネットワークの最適化          アーキテクチャの最適化         IT基盤の最適化

環境の最適化                      クラウドの最適化                   リソースの最適化

パフォーマンスの最適化      プロセスの最適化                  ビルドの最適化

ワークロードの最適化         パイプラインの最適化            ソリューションの最適化

セキュリティの最適化          運用の最適化                        業務の最適化

コストの最適化                    投資の最適化                        広告の最適化

 

ふだん目にする用例がたくさんあると思います。「ユーザーにとってメリットがあることを提供・実現します」と言いたいのはわかりますが、あらゆるケースで使われすぎていて、かえって凡庸なイメージが漂ってしまっています。

この「最適化」は、具体的にはどんなことを表しているのでしょうか。それぞれの違いは何なのでしょうか。別の表現に置き換えられないものでしょうか。分類して探ってみたいと思います。

 

その1:「最適化」=無駄をなくす・効率化する

「最適化」と謳いながら、実際には「無駄をなくす」「効率化する」を意味しているケースが少なくありません。どうやら、費用対効果やコスト効率を売りにした製品を出したものの他社もこぞって同じメリットをアピールする商品を出し、「効率化」というフレーズが陳腐化してしまった。それならと「最適化」を使ったキャッチコピーを作ったものの、それもまた陳腐化してしまった、という状況のようです。

「メモリの最適化」、「ディスクの最適化」、「アーキテクチャの最適化」、「業務の最適化」、「コストの最適化」あたりが、このケースに該当するでしょう。

「最適化」が陳腐化し、ベンダーが提供できるソリューションも多種多様になった今、このカテゴリでは、ふわっとした言い方よりもむしろ、どんなメリットを提供するかをピンポイントでアピールした方が利用者に刺さるかもしれません。

あるいは、全体をカバーする宣伝文で「効率化」を置き換えるなら、たとえば、

  • 「戦略目標に照らしてタスクをスリム化し、業務の贅肉をそぎ落とす」
  • 「アーキテクチャのシェイプアップで空費の洗い出し」
  • 「システム構成を精査して貴社の要件にジャストフィット」
  • 「プロセスの大掃除と整理整頓で運用全体を高能率化」
  • 「負荷のトリミングで労力を削減し、選択と集中をさらに研ぎ澄ます」

などはいかがでしょうか。いずれも奇をてらった表現ではありませんが、「最適化」ほどはまだ使い古されていないため、意外と効果を発揮するかもしれません。

 

その2:「最適化」=変動するニーズや需要に応じて動的に調整する

その1のケースの視線が内向きであるのに対して、このケースは外部の要因に対応することを謳っています。無駄をなくす点はその1と同じですが、静的な状況に手を入れるのではなく、変化するニーズや需要を満たす状態を常に維持できるよう、効率化をリアルタイムで臨機応変に行うというわけです。

刻々と変化する要求に応じて供給量を変える、ダウンタイムを生じさせないようピークに合わせて追加・増量する、ビジネス戦略の変化に合わせて絶妙なバランスを保つ、といった話のいずれにも「最適化」が使われています。

「キャッシュの最適化」、「ストレージの最適化」、「ネットワークの最適化」、「リソースの最適化」、「パフォーマンスの最適化」などが、これに当てはまるかもしれません。

このケースの「最適化」の代わりに使えそうなフレーズを挙げるなら、

  • 「当意即妙のリソース配分でソツのない環境を確立」
  • 「パフォーマンスの動的調整にあうんの呼吸を」
  • 「リアルタイムで臨機応変に自動調整」
  • 「オンデマンドの俊敏変更で急な変動に対応」

といったフレーズはいかがでしょうか。

 

その3:「最適化」=要件や目的にピッタリの構成や配置を実現する

その1と同様、視点は内部へ向いていますが、単なる効率化・コスト削減を越えて「最適な状態を作る」「最善・最良の形に整える」ことを意味しています。たとえば、顧客企業に固有の要件を満たせるように構成を組み立てたり、目標の達成や成果の最大化を目指してリソースを配分したりすることを指しています。

出来合いの既製品を導入するのではなく、ワンフィットオールなソリューションを無理に活用するのでもなく、貴社にうってつけの製品で貴社の理想にどこまでも近い環境を実現しますと訴えているわけです。

「システムの最適化」、「リソースの最適化」、「環境の最適化」、「広告の最適化」、「投資の最適化」などが、このカテゴリに当てはまるでしょう。

このケースで言い換えを考えるなら、

  • 「システムのリバランスで効率化を促進」
  • 「リソースを過不足なく再分配」
  • 「オーダーメイドの環境構築で、全社規模の令和改革」
  • 「既存の構成を再カスタムして、最新の要件や戦略に完全適合」

あたりでしょうか。

 

その4:「最適化」=時代の変化に適応できるよう環境や構成を再編する

現在、多くの企業で導入が進められたり検討されたりしているものに「デジタルトランスフォーメーション (DX)」があります。文字どおり、「デジタル技術の導入を通してビジネスや生活を大きく変える」ことを目指した取り組みです。世界の進歩や変化に追随し、その恩恵を余すところなく享受することが狙いです。そして、多くのソリューションプロバイダーがアピールしているのが「DX導入に伴う最適化」です。

ここでの「最適化」とは、単に新たなシステムを導入したり既存のプロセスを自動化したりするのではなく、人員・役割・プロセス・構成・体制を見直し、再編することを指しています。そのための触媒として多くのソリューションプロバイダーが提案しているのが、クラウドの採用です。クラウドの導入を契機として、自社の環境を構成するさまざまな要素を総点検し、目指す目標に最適なものへと組み直すというわけです。

最近では、このような取り組みを指すために、「最適化」の代わりに「最新化」が使用されているケースもよく目にするようになってきました。

他にフレーズの言い換えを考えてみるなら、

  • 「全社規模のデジタルアップデート」
  • 「最先端のトレンドにキャッチアップ」
  • 「ITインフラの若返りでビジネスのアンチエイジング」
  • 「過負荷をたらす過去から脱却し、未来志向でテクノロジを刷新」

などの表現はいかがでしょうか。目新しさはなくても陳腐化していないフレーズを使う方が、読み手を惹きつけるかもしれません。

 

おわりに

ここまで「optimize」(optimization)=「最適化」というフレーズを通してWebサイトの陳腐化を考察してきました。実際には多種多様であるはずの状況を「最適化」だけで表していて、ミクロな視点では刺さると思って選んだフレーズが、マクロな視点で見ると逆に月並み感を生んでいるケースが少なくないのが実情です。

結局のところ、このような状況を回避するにはどうすればよいのでしょうか。陳腐化を回避する方法はあるのでしょうか。

どうやら、答えは「NO」、正しく言えば「1回で済む解決策」というものは、なさそうです。

陳腐化を避ける最善手は、たえず、たゆまず新しいフレーズを生み出していくことです。冒頭で述べたように、目新しい語彙もいつか必ず陳腐化する運命にあります。とすれば、手を休めることなく、刺さるフレーズを発掘、創作し続けていくしかないようです。そのために必要なものは、さまざまなサイトや広告を俯瞰的に見ることができるマクロな視野と、柔軟な語彙発想力です。

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