同じお店を継続的に利用しているとポイントが溜まり、そのポイントを使ってお得にお買い物ができるシステムがあります。コンビニ、ドラッグストア、家電量販店。私たちは誰でも、何かひとつくらいはそういったカードの類を持っているのではないでしょうか。
似たようなシステムが、翻訳業界にもあります。「翻訳メモリ」です。今回はこれを少し説明したいと思います。
最初に簡単に言ってしまうと、翻訳メモリとは、
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- 一度訳したことがある文のデータを
- 似たような文に使い回す
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ためのしくみです。ひとつ例を見てみましょう。
原文 | 訳文 |
Last Sunday, I saw John crossing the street. | 先週の日曜、ジョンがその通りを渡っているのを見た。 |
8語から成る1文ですので、1単語100円とすると800円です。これを翻訳会社に支払いました(なお、今回は合計金額をある程度の規模の数字にしたかったため、単語あたりの金額を相場よりもだいぶ高く設定しています)。
そして後日、こんな文を訳すことになったとしましょう。同じく8語から成る1文です。
原文 | 訳文 |
Last Friday, I saw John crossing the street. | ??? |
こちらを同じ翻訳会社に依頼した場合、費用はやはり800円なのでしょうか。通常はそうはなりません。翻訳者/翻訳会社が使っているシステムでは、過去に訳した文とよく似た文があると、差分を表示してくれる機能があるからです。イメージとしては以下のような感じです。
原文 | 訳文 |
Last |
先週の日曜、ジョンがその通りを渡っているのを見た。 |
上の「Sunday」に対応する「日曜」の部分を「Friday」に相当する「金曜」に変えてやれば、作業が完了するわけです。当然、労力もゼロから翻訳するよりも少ないため、費用も少なくなります。
同じ会社に依頼するとお得になることがあるのは、ごくおおざっぱに言うとこのような理屈です。
もっとも、変わった箇所が1語だからといって、料金が8分の1(100円)になるわけではありません。前後の内容に照らして「本当にほかの部分を変える必要がないか」などを検討する必要があるからです。
これは、上の訳文が以下の文に流用できるかどうかを考えてみるとわかりやすいかもしれません。今回は計10語の文です。
原文 | 訳文 |
John called me when I was walking on the 5th street. | ??? |
先週の日曜、ジョンがその通りを渡っているのを見た。 |
いくらJohn、the、streetの3語が共通しているからといって、この10語を訳す手間が減るとは考えにくいです。streetに至ってはむしろ、5thが付いたことによって訳も「5番街」くらいに変わってきます。そのため、こちらの費用が700円になるということはなく、1,000円のまま変わらないでしょう。
このように、再利用がしやすいように原文と訳文をペアで記録したデータ、これが、翻訳メモリと呼ばれるものです。翻訳会社ではお客様や案件に応じて過去の訳文をメモリとして記録しているので、よく似た文が出てきたときに料金が安くなる可能性があるのです。そして、継続して依頼をしていればいるほど、訳文の蓄積が増えてくるので、よく似た文が出てくる可能性が大きくなるというわけです。
ご参考になれば幸いです。