今回の記事では、「Web3」「ブロックチェーン」「暗号資産」「NFT」を取り上げます。いずれも、XRと直接は関係していないのですが、2020年代に盛り上がりを見せているトピックとして一緒に論じられることがよくありますし、今後は相互の関連性がますます深まっていくと予想されますので、この機会に基礎知識を身につけておいて損はないでしょう。

まずは「Web3」から。「Web3」はシンプルに表現するなら「Webの利用法レベル3」です。3とありますので、1と2もあったはずです。Web3の話の前に、少し歴史をさかのぼってみましょう。

 

Web1.0

最初のWeb(Web 1.0)は、インターネットが一般に普及した1990年代から2000年代前半にかけてのWebの利用法です。サービスプロバイダーが情報やコンテンツの発信者で、ユーザーはそれを受け取るだけの一方向コミュニケーションが主流でした(後に、常時接続サービスが普及し始めると、自分でホームページを作成するユーザーが出てきて、それがWeb 2.0の土台となりました)。

 

Web 2.0

Web 2.0は、2000年代中盤から現在に至るWebの利用法です。「Web 2.0」という言葉自体は、2005~2010年によく目にしたバズワードです。最近はほぼ見かけなくなりました。Web 2.0は、回線の高速化、ブログの流行、TwitterやFacebookなどのSNSやYouTubeの登場に伴って、双方向コミュニケーションがメインとなったWeb活用法を指します。

ただ、Web1.0がWeb2.0に進化しても、ユーザーが作成したコンテンツはGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などの事業者が管理している点は変わりません。自分が作ったもので利益を得ようと思っても、プラットフォーム事業者に一部を吸い上げられ、事業者側の都合や判断で削除されることもあります。

 

Web3の登場

この中央集権構造を抜け出し、特定のプラットフォームに依存しないでWebを活用しようとするのが、2020年代に始まったWeb3です。事業者のルールに従うのではなくユーザーが主体・みんなで管理、という考え方です。中央管理者を介在せず、どこかのサービスに登録することなく、ユーザーが自分で管理している情報・データを個人間でやりとりしたり取り引きしたりできます。登場当初は「web3」と先頭も小文字で表記されていましたが、最近は「Web3」という表記のほうがよく見かけるようになっています。

Web3を解説した動画は多数ありますが、その中から、イメージをざっくりつかむのに適したものを1つご紹介します。

 

 

ブロックチェーン

このようなWeb3のあり方を可能にしている技術の1つが、ブロックチェーンです。ブロックチェーンは、ごく簡単に言えば「世界中の無数のコンピューター上に情報を分散して格納する技術」です。実体はピアツーピア型分散データベースの一種です。

ブロックチェーンのメリットはさまざまあります。すべてのコンピューターが自律しているので、ダウンタイムが生じず、記録を削除することもできません。不正を働こうにも、暗号化されて無数に分散しているため、莫大なコストがかかりすぎて割に合いません。情報の流れが透明化し、理念上は中間搾取もありません。

ブロックチェーンを基本レベルで紹介した動画はあまり多くないようです。その中の1つを共有します。

 

 

暗号資産・仮想通貨

ブロックチェーンを利用しているものに、暗号資産(仮想通貨)があります。暗号資産とは、特定の国や団体が発行・流通を管理しない通貨です。物理的な形態を持たないデジタル資産であり、銀行などの第三者を介することなく、インターネット上でやりとりできます。円やドルなどの法定通貨とも相互に交換できます。

暗号資産は決済や送金にも使えます。その点で、電子マネーの一種(しかも世界共通)とも言えますが、暗号資産は裏付け資産がないため、価格が大きく変動する傾向にあります。つまり投機的な側面があるわけです。そのため、株やFXのように投資の対象としても利用されています。

代表的な暗号資産には、ビットコイン、リップル、イーサリアムなどがあります。暗号資産交換所で円などの法定通貨を暗号資産に交換できます。交換所は(日本では)金融庁に登録されており、金融商品取引法の免許を取得しています。

登場当初は「仮想通貨」と呼ばれていましたが、2019年の資金決済法と金融商品取引法の改正に伴い、法令上は呼称が「仮想通貨」から「暗号資産」に変更になり、一般にも「暗号資産」という呼び方が普及しました。ちなみに「暗号通貨」はビットコインなどのブロックチェーン上の通貨を指します。

暗号資産についてわかりやすく解説した動画へのリンクを貼っておきます。

 

 

NFT

Web3や暗号資産とともによく目にするものに「NFT」があります。「NFT」もブロックチェーン技術がベースになっています。

NFTは「Non-Fungible Token(代替不可能なトークン)」の略称です。「トークン」とは一種の「しるし」で、NFTは「他のものと置き換えられないしるし」を表しています。実体は一意のアドレスです。偽造や改ざんが困難で移動の記録が残るブロックチェーン技術によって、唯一無二のしるしが実現されているわけです。

2021年にNFTアートが75億円で落札されたニュースが世界を驚かせました。物理形態を持つアート作品と違って、デジタルアート作品はデータなので、まったく同じものをいくらでも複製できるのですが、唯一無二のしるしであるNFTを紐付けることでコピーや偽造ができないようにして所有権を実現する、というのがNFTアートの仕組みです。この仕組みにより、実際のアート作品と同じようにデジタルアートも売買ができるようになりました。

最近では、著名なミュージシャンが代表曲のメロディーを1音ずつ分割して1万円で売り出すという例もありました。たった1音であっても世界で1つしかない証明書付きの音を所有しているという満足感が得られる一方で、購入者の中にははるかに高額な値段で転売した人がいたとも報じられました。サブスクリプション全盛の現代において、NFTはアーティストやクリエイターの重要な収入源になりうると同時に、NFT市場は未成熟な分、投機としての売買が過熱し、価格が高騰しすぎて届くべき人の手に届かなくなる可能性もはらんでいます。

NFTの基礎解説動画も共有します。イメージをつかめるかもしれません。

 

 

Web3関連サービス

Web3関連のサービスは、すでに国内外で多数提供されています。有名なところでは、Webブラウザー「Brave」、チャットツール「Discord」、SNS「Steemit」、NFTマーケットプレイス「Opensea」、メタバースプラットフォーム「Cluster」などがあります。「特定の事業者に依存しない使い方のはずなのに、サービス提供とはどういうこと?」と思えますが、Web3関連のサービスの多くは 、GAFAMのような特定の企業ではなく、コミュニティによって管理されています。中央サーバーを介さずに動画をストリーミングできるサービスや、個人間取引を自動処理プログラムで支援するサービス、管理職を置かず共同運営される企業形態向けのトークンサービスのほか、フリーランスの共同作業向けプラットフォームを提供するサービス、自動化と匿名化でシェアリングエコノミーを支援するサービスなど、(特定の企業が運営してはいても)Web3ならではのサービスも豊富に登場しています。あるいは、単に暗号資産やNFTを扱っていることからWeb3を名乗っているサービスもあり、まさに百花繚乱の様相を呈しています。

 

Web3への期待

冒頭で、Web3とは「Webの利用法レベル3」という意味だと書きましたが、暗号資産やNFTもこの「利用法」に含まれています。それらすべてを総称したのが「Web3」だと言えるでしょう。Web3では、クリエイターが特定の企業やスポンサーに縛られずに自由に創作し、かつ権利を自分で保有し、しっかり収益を得ることができると期待されています。前述のデジタルアートの例は、絵画や音楽に限らず、映画、マンガ、アニメ、ゲームといったデジタルコンテンツ全般に当てはまります。これまでのBtoB(企業間取引)やBtoC(企業と消費者の取引)に加えて、AirbnbやUber、クラウドファンディングで広がりを見せかけたCtoC(個人間取引)が今後は本格的に普及していくと予想されています。

 

Web3の課題

Web3には、大きく分けて課題が3つあります。法整備、抵抗感、「本当に『脱プラットフォーム依存』?」です。

 

法整備

Web3を取り巻く日本の法体系や税制の整備は、欧米に比べて遅れています。海外ではNFTや暗号資産を稼げるゲームが登場していて人気を博していますが、日本では規制によって国内発のゲームが立ち上げられません。国際的にはマネーロンダリング対策の取り組みが進んでいて、日本も外から刺激を受けるかたちで遅れながらも法整備の議論・検討が始まっていますから、この課題解決は時間の問題でしょう。ただ、それまでに国内の起業家の多くが海外へ流出してしまう事態が懸念されています。

 

抵抗感

具体的には、暗号資産に対する不信感と、新技術への馴染めなさです。不信感については、暗号資産の投機で失敗した話や仮想通貨にまつわる詐欺のニュースなどを聞いた方も多いでしょう。悪いイメージが付いてしまっています。新技術への馴染めなさについては、日本はデジタル化やキャッシュレスもまだ十分に浸透していません。キャッシュレスが前提のWeb3が一般に広く普及するには時間がかかりそうです。盛り上がっている層とそうでない層の差が小さくありません。しかし、スマホやSNSと同様、若い世代では気軽に積極的に利用する人が増えているため、徐々にではあっても親世代にも広まっていき、いずれは抵抗感も薄れていくと予想できそうです。

 

「本当に『脱プラットフォーム依存』?」

これは、Web3の理念への疑義です。というのも、Web3といえど誰かが提供しているツールやサービスを利用しないと始まりません。暗号資産は、それを入れておくウォレットというサービスの利用が不可欠です。結局は資本力のある別のプラットフォーム(あるいはWeb 2.0の時と同じプラットフォーム)が主導権をとる可能性は十分にあります。現状は玉石混淆で、怪しげなサービスも少なくありません。その点に関する懸念や批評の声が多数あがっています。それ以上に、ユーザーのニーズや欲求のほとんどはWeb 2.0で満たされているようにも見えます。自分たちで管理するより誰かに管理してもらうほうが楽だという人もいるのではないでしょうか。「脱プラットフォーム依存」を本当に求めているユーザーは現時点ではまだ多くないのかもしれません。
今は娯楽やビジネスの観点から捉えられているWeb3ですが、根底にあるは「事業者のルールに従う・全部任せるのではなく、ユーザーが主体・みんなの総意で管理しよう」という理念です。それに賛同するクリエイターは多数いるものの、コミュニティメンバーとしての参加者が増えていくのはこれからだと言えそうです。まだ当分は、Web3はWeb 2.0に取って代わるのではなく共存する形で浸透していき、両者を組み合わせたサービスも多数登場してくると予想されています。

 

最後に

Web3は、まだ生まれたばかりのサービスですが、分散・脱中央という概念は、ニューノーマル、働き方改革、マルチキャリア、SDGs、シェアエコノミー、脱炭素、地域創生、推し活、脱カテゴライズ、個人情報保護などと親和性が高いWeb利用法であることは間違いなさそうです。ここでは詳しく取り上げなかった「分散型自律組織DAO」や暗号資産を稼げるブロックチェーンゲーム「GameFi」、分散型科学者コミュニティ「DeSci」も盛り上がりを見せていますし、メタバースとの融合も進んでいます。Z世代や、さらに若いα世代(2010〜2020年代に生まれた世代)は、Web3ネイティブとしてWebに触れ、自由闊達に活用していくことでしょう。私たちは、共に働く仲間となる先行世代としても、その層をターゲットにするビジネスプレーヤーとしても、Web3をはじめとした最新テクノロジーに習熟し、使いこなすスキルを身につけることは、これからの時代に欠かせない要素かもしれません。

(記事作成日:2023年3月9日)

       

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