こんにちは、テクノ・プロ・ジャパン法務翻訳担当です。前回、法律文の接続詞について少し書きました。ルールはそれほど難しいものではありませんでしたし、最初は難しいと感じた方も、たくさん読んでいくうちにいずれ慣れます。しかし、実際の翻訳では悩む場面も少なくありません。

 

「英文契約書、1文が長くなりがち」問題

その原因の1つが、「英文契約書は、日本語の契約書よりも1文が長くなりがちだ」という問題です。
たとえば、以下の条文をご覧ください。長いです。

 

2. Applicant shall defend, indemnify, save and hold harmless the County of Humboldt, its elected and appointed officials, officers, employees, agents and volunteers from any and all claims, actions, proceedings or liability of any nature whatsoever (including, but not limited to: any approvals issued in connection with any of the above described application(s) by County; any action taken to provide related environmental clearance under the California Environmental Quality Act (“CEQA”) by County’s advisory agencies, boards or commissions, appeals boards, or commissions, Planning Commission, or Board of Supervisors; and attorneys’ fees and costs awards) arising out of, or in connection with the County’s review or approval of the Project or arising out of or in connection with the acts or omissions of the Applicant, its agents, employees or contractors.

引用元:https://humboldtgov.org/DocumentCenter/View/54189/CMMLUO-Indemnification-Agreement-v2-22416?bidId=

 

このくらいになると、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」をいかに正確に使ったところで、訳文が楽に読めるようになるわけではなくなってきます。純粋に接続詞だけの問題に絞っても、(1)「and」や「or」が入り乱れるほか、(2)その階層構造も2段階では済まなくなることが多いからです。それぞれ少し説明しましょう。

 

(1)「and」と「or」が入り乱れる表現、たとえば、「A or B and C」という表現には、「(A or B) and C」の可能性と「A or (B and C)」の2つの可能性があります。しかし、そのどちらの場合でも、日本語表現は「A又はB及びC」になります。「(A or B) and C」だからといって「A若しくはB及びC」とか、「A又はB並びにC」などとなったりすることはありません。「A又はB及びC」が「(A or B) and C」と「A or (B and C)」のどちらであるかは、内容に照らして判断していくしかないのです(「及び・並びに」のような区別がそもそもない英語も、内容から判断することになるのが基本です。が、引用文中央部にあるように、セミコロンを使って「A or B; and C」などとする手はあります。その意味で、「and」と「or」が入り乱れる文は、英語の方が形式的な手がかりが多いと言えるかもしれません)。

 

(2)階層構造が2段階で済まなくなった場合については、日本語の立法技術用語に一応のルールがあります。具体的には、階層構造が3段階(以上)に及んだ場合には、「並びに」と「若しくは」を複数階層にわたって使うというルールがあります。たとえば、「((A or B) or C) or (D or E)」なら、「A若しくはB若しくはC又はD若しくはE」となります。赤のorと緑のorは階層が違いますが、どちらも「若しくは」になるのです。ただ、このルールがわかっていたとしても、読む際に苦労がなくなるわけではありません。「A若しくはB若しくはC又はD若しくはE」の下線部が「(A or B) or C」なのか「A or (B or C)」なのかは、A~Cの内容を考えて判断するしかないからです。

 

こういう文にどうやって対応していくかこそ、翻訳者としての腕の見せどころと言えるのかもしれません。そこで今回は、実務で時折使われている工夫を1つ取り上げてみたいと思います。

 

「あるいは」が出てくるとき

「A or B or C or D or E」のような原文を処理するときに実務で時折使われるのが、「あるいは」という接続詞です。たとえば、先ほどの「A若しくはB若しくはC又はD若しくはE」が以下のようだったら、どんな印象になりますでしょうか。

 

AもしくはBまたはC、あるいはDまたはE

 

不思議と、階層構造が ((A or B) or C) or (D or E) のように読めないでしょうか。日常語的な感覚だと、「あるいは」は「大きく区切る」感じの強い言葉です。そのせいか、「又は」よりも大きな括りで並べているような印象ができあがります。

 

もちろん、立法技術用語として「あるいは」という言葉がそういう機能を持っているわけではありません。そのため、厳密に言うならば「あるいは」は反則ですし、「又は」よりも大きな括りであるという根拠は一切ありません。何も考えずに使うのは厳に慎むべきです。

 

しかし、そもそも立法技術用語としての「又は/若しくは」(「及び/並びに」)の使い分けは、「条文構造を明快にし、内容をすばやく把握できるようにする」ことが目的だったはずです。言い換えるなら、「内容をがっつり読み込まないと階層構造がわからないのでは大変だから、外形的・表面的なところをヒントにできるようにしよう」というのが、接続詞の使い分けの目的だったのではないでしょうか。

 

「A若しくはB若しくはC又はD若しくはE」の方が正しいといっても、そこに固執するあまりに訳文の構造把握に苦労するようでは本末転倒ではないか。この「あるいは」という表現は、そんな思いから出てきたものなのかもしれません。

 

英文契約書を日本語に翻訳する理由は、お客様によってさまざまです。ただ、たとえば「英文のままだと読むのが大変だ。母国語にして権利義務、各種リスクを効率的に把握したい」というご要望があるのなら、合意のうえでこの種の文体の逸脱をすることも、選択肢としてあっても良いと思う次第です。法律文書っぽい言い方をするなら、思料する次第です。

 

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