こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回も助動詞shallについての話を続けます。

 

過去2回の話の内容(第4回第5回)をまとめると、以下のとおりです。

        1. 「shall」を「ものとする」とすべしという意見には一理ある。でも、義務のshallにはもう少し義務であることがはっきりわかる表現を使いたい。
        2. 「する」は簡潔で良さそうだし、現実的にもよく見るけれども、これも周囲の内容なしで義務であることがわかるわけではない(=語句レベルでは、「ものとする」と同じく多義的)。
        3. とはいえ、「義務を負う」「なければならない」なども頻用するとうるさい。
        4. とすると、状況に応じて最善な選択肢を採用していくしかないのでは。

 

というわけで、今回はshallの話の締めくくりとして、義務を示すshallに使えそうな表現を各種(主観を交えて)検討していきたいと思います。

 

1.「する」

個人的には、これが第一選択です。前回、「語句レベルでは多義的」とは言いましたが、逆に文脈レベルで多義的になることはまれです。つまり、条文を普通に読んだ場合にまで「義務かどうかがわからない」ということはほとんどありません。何より、他の表現が頻用しにくいので、どうしてもこちらを多用していくことになります。

 

長所 短所
  • 簡潔に義務を表現できる
  • 頻用してもうるさくない
  • 語句レベルでは多義的になりうる

 

2.「ものとする」

前々回に書いたとおり、「shallが原文で使われている箇所」を訳文からもわかるようにする必要があるなら、これがほぼ第一選択です。そのような条件がないのであれば、「する」では語感がよろしくない場面で使えば十分だと思います。「語句レベルでは多義的」な点は「する」と同じなのですから、わざわざ「するものとする」と書くよりも「する」と書いて済ませた方が簡潔になり、基本的には楽に読めるはずだからです。

なお、前回前々回の内容とも重なりますが、「ものとする」が義務を表すことがあるからといって、「shall」を「ものとする」としなければならないということはありません。逆に、「ものとする」を使ったらどんな文でも義務を示すことになるというわけでもありません。

 

長所 短所
  • shallの多義性にうまく対応できる
  • 語感調整
  • 語句レベルでは多義的になりうる
  • 頻用すると冗長、かつ、うるさい

 

3.「義務を負う」

「する」では多義性を排除できない場合に使うくらいがちょうどよいでしょう。あとは、「ものとする」と同じく語感を調整したい場合や、「権利を有する」と対比させる文に使う場合なども良いかもしれません(Aは~する権利を有し、Bはこれを~する義務を負う、みたいな表現です)。

なお、翻訳実務では、be obliged toあたりの訳として使われているのをよく見ます。出現頻度が近しいせいではないかと思っています。

 

長所 短所
  • 「義務」意外に読まれる余地がない
  • 語感調整
  • 頻用するとうるさい

 

4.「なければならない」

こちらも義務表現としては、「する」を使った場合に多義性を排除できないときに使うくらいがちょうどよいでしょう。ただし、「義務を負う」とは異なり、義務にだけ使う表現ではないという点は、頭の片隅にあっても良いかもしれません。義務であることを確実に示したいのであれば、「義務を負う」以上の表現はありません。

なお、翻訳実務という点ではmustの訳によく使われる傾向にあります。

 

長所 短所
  • 語感調整
  • 頻用するとうるさい
  • 「義務」とは限らない

 

話の終わりに

以上、3回にわたって「shall」の訳を検討してきました。辿り着いた結論は結局、「義務のshallには日本語でも義務表現を使いましょう」という当たり前の話になります。いわゆる「銀の弾丸」などないということです。

納得いかない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「『shall』だから『ものとする』でいいの?」という疑問がそもそもの発端だったことを考えると、「銀の弾丸はない」というのも1つの答えではないでしょうか。何かに統一できたら楽だけど、どうしたってそうはいかない。これは法律系に限らず翻訳のあるあるですし、見方を変えれば頭を使って翻訳する醍醐味、翻訳者の腕の見せ所でもあるはずです。

       

法務翻訳つれづれ